2009年4月3日金曜日

3.妄想するより金をくれ

ある作家の言葉がずっと気になっている。
作品を読めば、その作家が女にもてるかどうか、すぐわかる、と。
当時、高校生であった私は、ただただ、戸惑った。もし彼の言葉が本当なら、自分の作品は、そんなもてない男の戯言にしかならないのか。また、その作家はどちらだろう。
この言葉に今でも縛られている。答えが知りたい。もしかすると、意外と常識なのか。友人とかまわりの男にはそんなこと、話題にしたことはない。恋人には怖くて聞けなかった。
Barで口説きたい女の何人かに尋ねると、全員が全員、「その作家はどちらだと思う?」と逆に質問を返してくる。サメのようなといわれた行動と対照的に、おたくっぽい風貌を思い浮かべて答えた。
「たぶん、もてないと思う。」
その後、一瞬の沈黙。実は、もてるかもしれない。もてないのはそんな質問をする自分ではないか。
そして話をかえる。しかしその後の話も弾まない。何となく店を出て、二度と飲むこともない。
そんなことを繰り返して、いまだにわからない。だからこんな質問は今はしない。よほど話が転がらないときだけだ。
なぜ自分がもてないかは、今ならわかる。
相手の何気ない一言にはっとなり、すぐ結末を急ぐ。男と女のミステリーは謎解きだけではない。
その舞台設定、技巧を二人で味わうものだ。一人だけでは美酒にならない。

作品を読めば、その作家が女にもてるかどうか、すぐわかる。
ちなみに、この言葉はある作家との対談での発言なのだが、その相手は「……」。
そして何年か前にこの言葉を発した作家に会って、尋ねたら、こんな答えだった。
「さあ。でもそんなこと言ったかな」

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