2009年5月11日月曜日

42.Dr.Head's Tower

ここは病室なのか。「老作家」は死の床についているということが信じられぬほど、精気に満ち溢れていた。確かにここは書斎ではなく病室である。しかしベッドがあるのみで、医療器具のの類いは全く見当たらない。かつて、ここは老作家の仕事場であった。そして時に欲望を満たすための交歓を行う場所であった。塔の最上階にあるこの部屋の360°の眺望は、スイッチひとつで、図書館に変わる。今はその眺望はそのままにベッドと老作家しか存在しない空間になっていた。これは病室である。
Gw1は、「老作家」の秘書に誘われて、ここに15年ぶりに訪れた。この秘書は自分の知っている女ではない。しかし相変わらず背中の伸びた女だ。ベットに横たわる「老作家」はかつてそうだったように、今も世界文学の王者であるかのように、振舞っている。
「文学なんてものに、一生をささげる価値なんてあると思うかね?君にとって文学とはなんだ」
「その答えは、あなたに奪われた作品がすべてです。」
「作品?あの文学のすべてがあるが、何一つとして独創的なものがないもののことか。あんなもの、作品と呼べるのかね」
「しかしそれをあなたは自分の作品として発表した・・・」
「それが唯一の契約だからだ。君が書く、そして私が発表する。それだけだ」
「そんな契約を押し付けたあなたに文学を語る資格はない」
「では、君の文学とは何かね。物語というシステムに支配されたものか。君の性癖どおりの局部への異常な執着を見せる言表かね。それとも人類のDNAや歴史の残像が透けて見える既視感に訴える言説の断片のコラージュかね。どれも紋切り型の寄せ集めのテクストで作品として昇華されていない」
「それであなたはベストセーラーを連発した」
「所詮、君はウィルスに過ぎない。」
「僕がウィルスだと!」
「私という宿主に寄生することによって、行き続けた。次から次へと世界中に伝播するウィルスと同じだ」「そのウィルスをなぜ、今、呼び集めたのか」
「私の課題に挑ませるためだ」
「ばかばかしい」
「報酬はお前の望み次第だ。地位も名誉もそしてこの背中の美しい女もだ。興味ないかね」
「課題は何だ」

0 件のコメント:

コメントを投稿